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途中棄権から一年。全員駅伝で勝ち取った悲願の初優勝!

予選会から上りつめた頂点。
創部65年目にして悲願の初優勝を果たす。

選手のコンディションに細心の注意を払い臨んだ予選会。
そこで選手たちは見事な走りを見せる

前年の1996年第72回箱根駅伝は、神大駅伝チームにおいて永遠に忘れられない大会となった。4強の一つに数えられるまでに成長したチームは、上位入賞に自信をもって臨んだものの、高嶋の故障により無念の途中棄権となった。しかし、その後の5区で区間2位、そして復路も2位と選手たちはその持てる力のすべてを出し切った。「来年に繋がるなにかを掴んだ」と大後コーチが確信したように、途中棄権というアクシデントを糧に神大駅伝チームがさらなる進化を遂げた瞬間だった。そして、その勢いをそのままに1997年第73回箱根駅伝で初優勝を成し遂げるのである。

振り返れば、第72回箱根駅伝は、多くの課題を残した大会だった。高嶋の他にも世界的な長距離ランナーとして注目を集めた山梨学大の中村も故障で途中棄権した。年を追うごとにハイレベル化する箱根に選手たちの肉体的・精神的負担が増加、それに警笛を鳴らす大会となった。神大の工藤監督(当時)は大会終了後に「指導者は選手の体調に対して念には念を押し、学生も勇気をもって本当の体調を伝える。今後はそうした信頼関係を築くことが大切」と語っている。大後コーチも細心の注意を払いながら選手たちのコンディションを把握し、今まで以上に科学的なトレーニングを活用して大会に備えた。

神大駅伝チームは予選会からのスタートとなったが、その強さを存分に見せつけた。従来の大会記録を大幅に塗り替え、難なく第73回箱根駅伝本大会出場を決めたのだ。神大の強さはやはり本物と誰もが認め、本大会前には中大、早大、山梨学大とならび4強の一つにあげられた。
しかし、そんな世間の評判をよそに大後コーチはチームの戦力を「選手たちはまだまだ力不足。前半はゆっくりと入って15キロからが勝負」と冷静に分析していた。そして、この指示を選手たちがしっかりと守り、自分たちのペースで走ったことが箱根初制覇に繋がった。特に、往路は強風が吹き荒れる最悪のコンディション。基準となるタイムが全く読めない中で選手たちは大後の戦略通り、自分たちの走りを貫いたのだ。

途中棄権から一年。昨年の誓いを見事に果たす、創部以来の往路初優勝!
そして待ちわびた歓喜の瞬間!

往路の第1区、チームで最も安定感のある高津が3位で2区・市川に襷を繋ぐ。キャプテンの市川はその重責を十分に果たす力走で、トップの山梨学大から16秒差で3区・大川に襷リレー。大川も向かい風の中、粘りの走りでしっかりと2位をキープし、4区ではついに藤本がトップに立った。はじめて小田原中継所を首位で襷を繋ぐと、山登りのスペシャリスト5区・近藤が区間1位の激走をみせ、そのまま2位の中大に2分8秒差をつけ、創部以来初の往路優勝を果たした。

そして、初の総合優勝がかかる復路。はじめての下りを任された渡辺が区間5位で7区・小松に襷を繋ぐ。小松は確実にイーブンタイムを刻みながら8区の岩原へ。岩原は後半にペースアップして2位に5分30秒差をつけ、9区・高嶋へ襷を繋いだ。前年途中棄権となり、疲労骨折の影響が心配された高嶋だったが、区間記録にあと17秒と迫る快走をみせ、リベンジを果たす。ついに2年ぶりの襷を10区今泉へと繋いだ。1年生の時から故障が多く、4年生になってやっと箱根のレギュラーの座をつかんだ今泉は、アンカーという重責をもろともせず、9人の汗がしみ込んだタスキを受け、栄光の瞬間を飾るのにふさわしい力走をみせる。
初の箱根で区間賞を樹立、大手町のゴール1キロ手前では2位の山梨学大との差は8分以上開いていた。(復路優勝は駒大・総合6位)

確かな足取りでプラウド・ブルーのユニフォームがゴールに近づいてくる。ゴール付近では、選手・マネージャーをはじめ駅伝チームの関係者が全員で「イズミ!イズミ!」の声援をおくる。工藤監督、大後コーチもその輪に加わった。
そして、栄光のゴール。人差し指を高々と突き上げて飛び込んだ今泉を歓喜の輪の中に迎え入れると、植田部長を胴上げ、続いて今泉、市川キャプテン、大後コーチ、工藤監督の身体が次々と宙に舞った。

創部65年目にして果たした箱根駅伝初優勝!
「部員たちは、本当にたくましく成長した」

思えば創部以来65年、初出場から61年、29回目の挑戦での箱根駅伝初優勝だった。優勝を果たしたエントリーメンバーを眺めても、決してエリートはいない。山の神・近藤にいたっても名門・洛南高等学校ではエース格とはお世辞にも言えない選手だった。そんな雑草集団が箱根駅伝の頂点に立ったのだ。工藤監督や大後コーチなど指導者の手腕が高く評価される結果だろう。しかし、大後コーチが言う通り、指導者は戦力を整えるが、駅伝を戦うためのチーム力は、部員たち一人ひとりが、いかに高めていくかにかかっている。選手たちの自主性なくしてはなし得ないものなのだ。「部員たちは本当にたくましくなった。指導者の力ではなく自分たちで成長したんです」……大後コーチのこの言葉に、神大駅伝チームの強さの秘密が隠されていた。

  • 悲願の初優勝を果たした駅伝チームの部員たち
  • 地元横浜のデパートも神大駅伝チームの快挙を祝ってくれた

Episode4 雑草集団が果たした箱根連覇!Episode4へ

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